『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』感想

ドクター・ストレンジマルチバース・オブ・マッドネス

(原題:Doctor Strange in the Multiverse of Madness)

 

監督:サム・ライミ

脚本:ジェイド・バートレット/マイケル・ウォルドロン

製作総指揮:スコット・デリクソン

音楽:ダニー・エルフマン

 

一部ネタバレを含んでますのでご注意ください。(該当箇所は事前に赤字で警告してます。前半部分と最後の総評はネタバレ無しです。)

ちなみにMCUに関してはドラマ含む全作品を追ってるくらいにはファンです。2016年の『ドクター・ストレンジ』はまあそれなりに好きだったなー、くらいな感じでした。それでは以下感想です。

 

最初から最後までサム・ライミ節が全開で楽しかったです。『スパイダーマン』、『死霊のはらわた(The Evil Dead)』、『スペル(Drag Me to Hell)』あたりを観てみるとより楽しめるかと思います。個人的には監督の個性が強く出てる作品の方が好きなので、そういった意味では非常に良い作品だと思いました。特にMCUはマーベル・スタジオ監修のもとで進められている以上、今の所こういう作品はそんなに無い(ジェームス・ガンの『ガーディアンズ』2作とタイカ・ワイティティの『ソー:ラグナロク』くらい)ので嬉しいです。

 

MCU初のホラー映画と謳われている通り、それなりにホラーテイストがあり、実際2、3回はビクッとさせられました。負傷や死者の描写もめちゃくちゃグロいとかでは無いですが、他のMCU作品はだいぶマイルドなので、それと比較するとそれなりに過激なシーンがあったのも新鮮でした。

 

役者陣が優秀なのはMCU作品においてはあまり珍しいことでは無いかもしれませんが、どの役者さんも素晴らしかったです。

様々な宇宙におけるドクター・ストレンジを演じ分けたベネディクト・カンバーバッチはもちろんのこと、ソーチー・ゴメス演じるアメリカ・チャベスも初登場にして早速好きになれました。ドクター・ストレンジは彼女やスパイダーマンみたいに軽妙なキャラとの相性が良いですね。はじめて見る女優ですが、今後も活躍が楽しみです。

また、クリスティーン・パーマー役としてレイチェル・マクアダムスも続投しています。前作ではあくまでサブキャラ的ポジションで正直そこまで思い入れはありませんでしたが、本作ではそれなりに出番があり前より印象的な人物になっています。

そして誰より魅力的だったのがワンダ役のエリザベス・オルセンです。ワンダの抱える複雑な心境を見事に表現していたと感じました。タイトルにスカーレット・ウィッチの名前を入れた方がいいんじゃないかと思うくらいには良いキャラしてます。

 

劇中の音楽も他のMCU作品の例に漏れず素晴らしかったです。実際に聴いてみてくださいとしか言いようがありませんが、映画の雰囲気にマッチしていて良かったです。

 

そしてなにより圧巻の映像美でした。1作目でも他作品と比較しても群を抜いて視覚的な楽しさがありましたが、本作は更にその上をいっています。今まで以上に魔法のバラエティが豊かになってる上に、マルチバースを横断している際にも様々なアートスタイルを楽しめました。間違いなく映画館で見た方が楽しめるタイプの映画ですね。

 

一方で(特に終盤は)ペースが急に感じました。諸々の事情があるというのは重々承知ですが、あと20分くらい長くして話に余裕を持たせることができたんじゃないかなと思います。詳細はネタバレしないと触れられないので後ほど。

 

また、台詞回しもうーんと思うようなものがちょいちょいあったのが残念です。

マルチバースをはじめとして、色々とわかりにくい概念を観客に噛み砕いて伝えるにはある程度説明的な台詞も必要なのはわかりますが、正直ちょっと冗長な印象を受けました。

それ以外にもいかにも俳優が脚本に言わされているかの様な台詞も散見されました。

 

=====以下ネタバレあり=====

 

さて、前述の通り、後半のペースはかなり急だと思いました。具体的にはシニスター・ストレンジが登場したあたりから尺が足りなくなったのかと思うレベルの速さで物語を畳みにかかっています。

悪ストレンジを倒す→ドリームウォーク→ワンダとの戦闘&説得→ワンダの自決

の一連の流れにもうちょっと時間を割いても良かったんじゃないかなと…

いろいろな都合があるとは思うのですが、特にワンダが別の宇宙での自身との対話はもう少ししっかりと描写して欲しかったところです。

話は逸れますが、どこかのタイミングで白ヴィジョンが登場するんじゃないかと思っていたんですが、そんなことはなかったですね。今後出てくる機会はあるんでしょうか。

 

しかしペースこそ早かったものの、話の畳み方自体は良かったと思います。ワンダの最期も(本当に死んでしまったのかはさておき)納得のいくものでしたし、“Are you happy?” の問いに対してストレンジが自分なりの結論を出せているのも見ていてスッキリしました(ウォンとの会話も良い)。予告編の段階で多くのキャラクターが登場するのはわかりきっていたので、綺麗に纏められるのかが不安でしたが、ちゃんと一つの作品として完結していて安心しました。

 

また、賛否ありそうなイルミナティの扱いですが、個人的には好きでした。

別の宇宙におけるアベンジャーズ的なポジションの人達がワンダに為す術も無くやられていく様子を見せることで、彼女がいかに脅威であるかを見せつけられたのではないでしょうか。

プロフェッサーXとミスター・ファンタスティックはここでMCU内初登場ですがちょっと可哀そうですね。両者ともいずれ登場するはずなので、ちょっとした先出しって感じなのでしょうか。

キャプテン・カーターはWhat ifと同一人物では無い気はしますが、いずれにしても実写で見れたのは嬉しいです。“I can do this all day”が貰えたのも良いですね。盾での両断は同じくWhat ifゾンビ回のオマージュでしょうか。同時に、自身の武器で同じ状況になったサム・ライミスパイダーマンのグリーンゴブリンの最期を彷彿とさせますね(心なしか直撃するタイミングで顔へのアップする感じも似てると思いました)。

また、ブラックボルトの扱いも気になるところです。ドラマ版との繋がりは今後どうなるんでしょう。ちなみにイルミナティの死に様だとブラックボルトのお口チャック→自爆が一番ショッキングでワンダの恐ろしさが表れてると感じました。

 

最後にエンドロール後の映像についてですが、一つ目は正直あまり好きではなかったです。本編ラストで三つ目が発現して衝撃的な終わり方をしたはずが大丈夫そうで拍子抜けでしたね。また、エンドクレジット後に新キャラを登場させるのも微妙かなと…『エターナルズ』でもそうでしたが、ただでさえMCU内のキャラクターが増えていっているのにさらに最後に大した思い入れも無い人を登場させても???ってなっちゃいますね。

2つ目はシュールで良かったです。ぜひご自身の目で見てください。

 

=====ネタバレ終了=====

 

全体的に見て、粗が目立つこともあるものの、それ以上に良いところが光っていた映画です。前述の通り、自分としては監督の個性が感じられる映画が好きなので、今後もMCUにはこういった映画をもっと作って欲しいです(そういう意味では次のソーはめっちゃ楽しみ)。

元々ドクター・ストレンジが好きだったこともあり、非常に満足できました。

一方で、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』もそうでしたが、過去作を追ってきた人に向けたファンサービス的な映画としては良かったものの、過去作を追っていないと楽しめないつくりになっているのはどうなんだろうと思います。どんどん敷居は高くなってしまいますし、こういったイベント的な映画はたまにやれば十分じゃないかなと...しばらくは単品で楽しめる映画が見たいものです。

とはいえ、ある程度MCUを追っている人であれば自信を持っておすすめできます。事前に『ワンダヴィジョン』を見ておきましょう。

 

7.5/10